新百合ヶ丘の庭

  • 2008/09/01
  • 住宅系ランドスケープ
自然環境の充実を図る区画整理事業
本案件の万福寺一帯は、南面傾斜の陽当りの良い敷地で、江戸時代にはクヌギ・コナラの炭焼きが盛んな集落が点在するエリアであった。2000年に始まった「万福寺土地区画整理事業」では、宅地利用と公共施設の充実を謳いつつ樹林地の保全による良好な環境の市街地形成が目的とされた。その為、周辺の集合住宅は外部空間の設計において、自然環境への配慮が重視されている。
集合住宅の外部空間の使命
集合住宅は歴史を持たない集落である。集落の重要な作法のひとつに、「他人の子を叱る」がある。地域の大人が近所の子どもたちを見守り育てる人間関係が集落の最も重要な人間関係の根底にある。それが可能となるような、人と人の繋がりを創り出す事こそが、集合住宅の庭に求められる究極の機能である。
本案件の中庭で重要視したのは「立ち止りたくなる」空間の創出である。立ち止まる事で住民同士の会話が生まれる可能性が高くなるし、自然環境に気付くキッカケとなるかもしれない。また意図的に製品としてのベンチは設置せず、座りたくなる段差や小さな壁や大きな石を巧みに配置する事で、お気に入りの小さな場所を自分で発見して獲得する楽しさの体験を目指した。この小さな満足感が中庭に対する愛着となるのである。
江戸時代の入会地を継承する裏山は、多世代の住民が自然環境に触れるだけでなく、頂上から地域周辺を展望する事で、地域の風景に対する思いがより深くなる事を意図して計画された。
エイジングの価値
集合住宅の設計は、施主との協議により設計が進められるのが常であるが、当該案件は、施工途中より設計者と入居予定者との交流が図られた。竣工後も住民が組織する管理組合の主催する中庭のイベントでは、近隣の町内会長と共に外部空間の設計者として招かれ、庭の使い方に関して説明する機会を得た。竣工後 12年が経ち、これからのランドスケープの在り方に関する議論が始まろうとしている。
多様な入居者層との交流を図る事で管理組合との関係を継続しながら、庭の状況を見守る事が可能となった。入居者にはグレード感を求める人もいれば、子どもの遊び場を期待する人もいる。集会室等建物内部の共有スペースでは解決出来ない人間関係の成立が求められるのが集合住宅の外部空間をどのように育ててゆくべきか、住民たちとの協議で学ばせて貰いたい。

その他の実績

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