「九曜舎」の坪庭

GOOD DESIGN賞 2019 受賞
  • 2019/04/01
  • 住宅系ランドスケープ
都心の狭小庭園
施主の系譜より「九曜舎」と名付けられた当作品は、都心の狭小住宅における空中庭園及びエントランスアプローチの計画である。交通量の多い街路から一歩住宅街に入った静かな敷地周辺は、松平家の屋敷を擁する静かな武家地であった。明治期以降、文豪夏目漱石の生誕地として広く知られることになるこの地域は、緩やかな坂が交錯する穏やかな地形で、高台には陽当り良好な住宅環境を形成している。業界再編が著しい出版業を営む施主は、激務の後に心身を癒す都会の住処としてこの地を選んだ。
個人住宅の玄関アプローチと二階居間の坪庭は、上下に重なる二箇所の外部空間である。これらは、モダニズム建築の空間基盤と連携する空間ではあるが、形態や様式にこだわる事なく、都市に浮遊する二枚のミクロなレイヤとして計画された。
重なる空間としての坪庭
幅員4mの公道に接する敷地前面部分には、格子戸をイメージする鉄製の滑り戸を設置。これの西端を潜り敷地内へ踏込み、東に向かって那智黒八分砂利を敷き詰めたアプローチの平板飛石を玄関へ向かう。飛石の先には視線を下げる意図で、桂の岬灯籠を置きトクサをバックにダウンライトで深夜の帰宅者を迎え入れる。
玄関を入り照度を落とした階段を二階に抜けると、坪庭から射し込む光が居間の明るさを演出する。約3坪の小さな坪庭ではあるが、太陽の入射角と周辺建物の高さを精査して囲障壁の天端高さを検討した為、庭の月見台に出ても、都会にいることを忘れ、静かな時間を享受出来る庭となった。
北木石の寄灯籠とコールテン鋼擁壁の素材表面の「肌理」のコントラストが、自然素材の体験価値を高める。また伊達冠石の手水鉢の磨き抜いた上面を滑る水膜は、風の動きを顕在化すると共に、月見台に座る人の視線を青空に誘い出す意図で配置された。日本庭園の伝統的な素材を使いながら、水の音、枝葉の音、砂利を踏む音等を体験する事で、日常忘れがちな自然と人間の関係を見つめ直す事が坪庭計画の究極の目的である。
時空を超える庭園素材の意義
日本庭園本来の素材を現代的な空間形態のフィルターを通して具現化させる事は、都会の狭小空間であっても、凝縮された自然環境のエッセンスを、より一層深く生活の中に染み込ませる意義があると考えている。

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